法人税の申告書の概要と用意する申告書の種類は?
個人事業主が所得金額を確定申告するのとおなじように、法人も申告する必要があります。
しかし法人が法人税を申告する場合は、個人に比べて添付書類や明細書の数が多く、複雑です。
そのため、個人事業主から法人化したばかりの最初の申告は特に、申告の手順から提出に必要な書類もわからないことでしょう。
今回は法人税の申告に必要な手順や必要書類の概要についてわかりやすく解説します。
法人税申告書は決算期2ヶ月後が提出期限
法人税の申告は決算後2ヶ月以内におこないます。
個人事業主の場合は決算期が1/1~12/31と統一されていますが、法人の場合は法人ごとに決算期が異なります。
そのため、法人税を申告するタイミングも法人によって異なるので注意しましょう。
日本では法人決算期は3/31と9/30がもっとも多くなっています。
この場合は、法人税の申告期限はそれぞれ2ヶ月後の5/31と11/30となります。
なお、法人税の納付も決算後2ヶ月以内が期限となります。
3/31に法人決算期を迎える法人であれば、5/31には法人税の申告と納付の両方をすませておくようにしましょう。
法人税申告の提出書類と添付書類
法人税の申告にあたって中小企業が準備すべき書類は、一般的に以下の5種類です。
2.消費税申告書
3.復興特別法人税申告書
4.都道府県税にあたる法人事業税等の申告書
5.町村の法人住民税の申告書
申告手続きのベースとなる法人税申告書は、個人で作成するのはほぼ不可能です。
なぜなら、別表の数が多く、ものによっては内容がかなり専門的なので素人には理解が難しいからです。
そのため、法人税申告書を作成する際は税理士との契約が不可欠です。
中小企業経営者は、法人税の申告に関しては細部まで理解する必要はありませんが、税理士と契約するにあたって困らない程度の知識は頭に入れておきましょう。
法人のなかには、日頃の会計には税理士を使わずに法人向け会計ソフトを活用しているところもあるでしょう。
しかし、会計ソフトでは税務申告書の作成まではやってくれないため、申告書の作成にあたっては別途税理士と契約しなければなりません。
これから法人化をお考えの自営業の方は、法人化にあたって税理士への報酬も見込んでおいたほうが良いでしょう。
法人税申告書の7種の添付書類
法人税を申告するにあたっては、以下の7つの添付書類も提出します。
この添付書類は、申告書の税額が適正かどうかを税務署が判断する際に材料として役立てられます。
2.決算報告書
3.貸借対照表
4.損益計算書
5.株主資本等変動計算書
6.勘定科目明細書(科目明細書)
7.法人事業概況説明書(事業概況書)
法人税申告書の別表は、別表調整といって企業会計上の利益と税務上の所得との差を調整するために必要な書類です。
「別表1(1)~別表16(8)」までありますが、すべてを提出する必要はありません。
提出が必要なのは一般的に、別表1(1)、別表2、別表3、別表5(1)、別表5(2)のみです。
提出が必須となっている別表について、簡単に内容を説明しましょう。
※5~7の書類についても後ほど解説します。
別表1:各事業年度の所得に係る申告書
別表1は、法人の基本情報47項目を記載する書類で、青色申告と白色申告とがあります。
「翌年以降送付要否」のチェック項目があるので、翌年以降に法人税申込用紙のセットを自動送付してほしい場合は、初年度に「要」欄にチェックを入れてください。
初年度にチェックを忘れてしまうと、翌年度以降にチェックを入れても一部の申込用紙は送付されなくなってしまうので注意しましょう。
別表2:同族会社等の判定に関する明細書
別表2は、株主との関係や保有株式比率を記載する書類です。
税務署は別表2を見ながら株主と法人とが同族会社かどうかを判断します。
法人税の納税額は同族会社や特定同族会社の数によって変わります。
別表4:所得の金額の計算に関する明細書
会計上では収益から費用を差し引いて「利益」を求めますが、税務上では益金から損金を差し引いて「所得」を求めます。
ところが、企業会計の利益計算と税務上の所得計算とでは判定基準に違いがあるため、会計上は「費用」とみなされるものも税務上では「損金」に算入されないケースがあります。
この差額を決算調整するために必要なのが、この別表4です。
例えば、交際費は企業会計では費用ですが、税務上損金としては原則認められません。
ほかにも、企業会計では見積もりで費用として数えられる配当金に関しても、税務上では見積もり計算が認められないために損金算入はされません。
その代りに配当金は将来解消される「留保」として数えられ、実際に解消されたのちにはじめて損金として認められます。
別表5(1):利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
別表5(1)は法人税の賃借対照表に相当する明細書です。
別表4で留保金額は、この別表5(1)と連動します。
別表5(2):租税公課の納付状況等に関する明細書
別表5(2)には、租税公課と法人税、地方法人税、都道府県民税、市町村民税、法人事業税の内訳と、未払法人税等の内訳を記載します。
法人特有の添付書類
法人税申告書の添付書類のうち、「株主資本等変動計算書」と「勘定科目明細書」「法人事業概況説明書」の3つの書類は個人事業主の場合は提出する必要がない法人特有の添付書類です。
それぞれについて解説しましょう。
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、資産から負債を引いた差額(いわゆる純資産)について、その変動を詳しく記載するための書類です。
純資産の変動については、過去には「賃貸対照表」のなかの「純資産の部」という欄で取り扱われていました。
しかし、法改正によりその変動についてより詳しく記載しなければならなくなったため、株主資本等変動計算書という書類を個別に作成しなければならなくなったのです。
法人ごとに提出の要否が異なる別表とは違い、株主資本等変動計算書の作成義務はすべての法人にあります。
合資会社や合同会社などの場合には「社員資本等変動計算書」と呼ばれています。
勘定科目明細書(科目明細書)
勘定科目明細書とは、貸借対照表および損益計算書の各勘定科目の内訳明細書です。
といっても、内訳の明細はすべての勘定科目に必要なわけではありません。
下記に該当する場合には、鑑定科目明細書を作成しましょう。
期末日に残高があるものは、すべて内訳明細書に記載する。
2.損益科目
役員報酬や人件費、地代家賃など特定の科目について内訳明細書に記載する。
法人事業概況説明書(事業概況書)
法人事業概況説明書とは、税務署が法人の業務・業況などの企業実態を把握するために必要な書類です。
平成18年度の税制改正から提出が義務付けられました。
事業内容・事業形態、支店・海外取引状況、期末従業員等の状況やコンピューターの利用状況、主要な勘定科目、経理の実務担当者名などを記載します。
法人税申告書の3つの提出方法
法人税申告書は、税務署窓口、郵送、電子申告(e-Tax)の3つの方法で提出できます。
税務署の窓口で提出する場合、平日8時30分~17時00分までが受付時間です。
税務署の開庁時間外であっても時間外収受箱に投函すれば申告書を提出することはできますが、受付作業の開始は翌開庁日以降となります。
郵送で提出する場合もおなじで、税務署の閉庁日である土日祝日には受付はしてもらえません。
ただし、送付自体は週末でも可能ですから、土日祝日であっても提出はできます。
法人税を電子申告する場合については解説が長くなるため、以下にまとめました。
法人税申告書の電子申告方法
資本金1億円以上の大法人は、平成30年度税制改正で、平成32年度からe-Tax(イータックス)による申告手続きが義務付けられています。
これを「電子申告の義務化」と呼んでいます。
e-Taxとは、国税に関する各種手続きをインターネット上でおこなえる無料のシステムです。
中小企業に関してはまだ義務化されていませんが、自主的に電子申告することは可能です。
将来的には中小企業にもe-Tax提出が義務化されるでしょうから、会社規模に関係なく、今のうちからe-Taxでの申告に慣れることをおすすめします。
e-Taxを利用するには、事前に以下の準備が必要です。
電子証明書の取得
電子申告では、代表者の捺印ができない代わりに電子証明書を取得しなければなりません。
証明書には種類がありますので、取得しやすいものを見つけておきましょう。
※参考:e-Tax公式サイト「電子証明書の取得」
ICカードリーダーの購入
電子証明書はICチップが埋め込まれたカード形式です。
そのため、カード情報を読み取るためのICカードリーダーを購入しておかなくてはなりません。
ICカードリーダーは市販で数千円程度で手に入ります。
電子申告・開始届出書
法人税を電子申告するためには、事前に開始届出書を提出しなければなりません。
税務署にて直接届け出ることも可能ですが、e-Taxを利用すればインターネットで簡単に届け出ることができます。
届け出ると「利用者識別番号」が発行されるので、必ず保管しておきましょう。
法人税を申告する際の3つの注意点
法人税を申告する際には次の3つの点に注意してください。
署名と記名は正しく区別する
法人税申告書別表1と都道府県の申告書第6号様式には、代表者の署名と捺印の欄があります。
この欄は「自署押印」でなければならないので、代表者が直筆で書き、押印しなければなりません。
一方で、市区町村の申告書第20号様式のように「代表者氏名印」となっている箇所の代表者名は、秘書などの代筆やゴム印でもかまいません。
代筆やゴム印ですませることは、「署名」ではなく「記名」といいます。
法人税申告書を作成する際は、このように「署名」と「記名」を正しく区別しましょう。
区別するのが面倒であれば、すべて自署にすれば間違いはありません。
申告書は2部作成し、提出する
法人税申告書は2部作成し、2部とも提出しましょう。
税務署に提出すれば、うち1部はその場で受取印を押して控えとして返却されます。
郵送で提出する場合は、返信用封筒を同封すれば控えが返送されます。
法人税申告書の控えは銀行融資を受ける際に必要となるケースがあります。
いつでも写しが作れるように大切に保管しておきましょう。
地方税の申告先は別となる
個人事業主の場合は、所得申告をするだけで事業税と住民税に関しても税務署から地方自治体に自動的に申告がすませれます。
一方で、法人の場合には、法人事業税と法人住民税は所得申告とは別に各地方自治体にみずから申告しなければなりません。
一部の税務署では「三税一括収受」といって署内に地方税申告の仮設窓口を併設していて一度の申告が可能ですが、そうでない場合は法人事業税と法人住民税の申告を忘れないよう注意しましょう。
ちなみに、地方税の申告書には添付書類は基本不要ですが、自治体によっては貸借対照表と損益計算書の提出が必要な場合があります。
個人事業と法人事業との違い
最後に、個人事業主から法人化する人のために、簡単に個人事業と法人事業の違いをまとめたので参考にしてください。
個人 | 法人 | |
---|---|---|
開業・設立 | 開業届のみ | 定款・登記が必要 |
税金 | 経費範囲が狭い | 経費の範囲が広い |
赤字(欠損金額)の繰越 | 青色申告で3年 | 9年 |
会計処理 | 個人の確定申告で簡単 | 法人決算書・申告※税理士が必要 |
生命保険料 | 所得控除 | 全額経費 |
取引先への信用度 | 低い | 高い |
銀行からの融資提案 | 業績があっても少ない | 業績良好であれば多い |
減価償却資産の計算 | 届け出をしないと定額法 | 定額法と定率法 |
法人化すると費用がかかる分、設立後に認められる経費も増えます。
また、繰越欠損金も、個人事業と比べて法人なら6年も長く認められるメリットがあります。
法人化をお考えの方は、上記以外にも法人税率も引下げ傾向にあるかどうかも含めて法人化を検討しましょう。
まとめ
法人税の申告に関わる提出書類は数が多く複雑なので、実際の作成は税理士に任せることが得策です。
社内だけで税理士資格を持たない人が作成するのは、トラブルを招く可能性が高くなるため避けるのが賢明です。
e-Taxを活用すれば、社内での書類準備の手間をかなり省くことができます。
法人代表者の署名捺印が不要になることで、地方支店の多い企業にとっては大きなメリットとなることでしょう。
これから個人事業を法人化しようと考えている人は、申告書類を含めて個人事業と法人事業の違いをよく理解してから法人化を進めましょう。