法人税の減税メリットは?引き下げされる条件はあるの?
世界的な法人税は、法人税率トップだったアメリカでは改正法案の米議会通過により2018年から法人税が21%に引き下げられ、第2位のフランスも減税政策による法人税の引き下げの可能性は高くなっています。
そうした世界的な法人税引き下げの拡大を受けて、日本企業に対しても平成30年度税制改革では条件付きで法人税を優遇する制度が創設されています。
今回はこの制度の概要やメリットについてわかりやすく解説しましょう。
平成30年度税制改革の概要
まずは法人税の減税も含めて平成30年度税制改革の概要をご紹介しましょう。
7つの改正
平成30年度の税制改革では、大きく分けて以下の7つの改正が行われています。
2.法人課税
3.資産課税
4.消費課税
5.国際課税
6.納税環境整備
7.その他
まず「個人所得課税」では給与所得控除や年金所得控除が一律10万円引き下げられる代わりに、すべての所得で控除される基礎控除が10万円引き上げられます。
つまり給与所得や年金所得ではないフリーランス、請負の仕事をしている人も基礎控除額が10万円アップします。
給与所得者や年金受給者も基礎控除がアップするので、実質的には増税になりません。
法人課税に関しては後ほど詳しく解説します。
「資産課税」では3つの内容が改正されています。
・一般社団法人等に関する相続税、贈与税の見直し
・外国人出国後の相続税等の納税義務見直し
「消費課税」は増税傾向にあり、新税も創設されています。
・外国人旅行者向け消費税免税制度の利便性向上
・金の密輸入に対応するための罰則の引き上げ
・たばこ税の見直し(増税、加熱式たばこへの課税)
「国際課税」「納税環境整備」「その他」の項目の中で、企業や国民に大きな影響があるのは以下の2つです。
・所得税の確定申告・年末調整手続の電子化
資本金1億円以上の企業(大法人)は電子納税の比率が低いことから、平成32年度からは義務化されることになりました。
また、現在源泉徴収義務者が提出している「生命保険料控除」「地震保険料控除」「住宅ローン控除」に関する年末調整関係書類の電子的提出が可能となります。
今は国税と地方税の納税先はそれぞれに異なりますが、将来的には電子納税システムで共同収納が可能となります。
つまり所得税と市区町村字税、都道府県民税を一度に納税することが可能になります。
平成30年度の法人課税の改正内容
続いて法人課税に関する改正内容を解説します。
平成30年度の法人課税の改正点は以下の3つです。
・特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る所得計算の特例の創設
・地方拠点強化税制の見直し
なかでも「賃上げ・生産性向上のための税制」が平成30年度税制改正の目玉と言ってもいいでしょう。
改正内容は以下の4つです。
賃上げおよび投資の促進に係る税制(大法人)
■対象期間:平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの開始事業年度
■要件
・継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率3%以上
・国内設備投資額:当期減価償却費の総額の9割以上
■税額控除
・給与等支給総額の対前年度増加額の15%を税額控除
・教育訓練費増加要件(当期の教育訓練費≧前期・前々期の教育訓練費平均の1.2倍)を満たす場合には控除率を5%上乗せ(合計20%)
・税額控除額は法人税額の20%が限度
情報連携投資等の促進に係る税制
■対象設備:法施行の日から平成33年(2021年)3月31日までに取得等をする設備(ソフトウェア・器具備品・機械装置)
■要件
・計画の認定
・継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率≧3
■優遇措置
・特別償却30%
・税額控除5%(①②を満たす場合)法人税額の20%限度
・税額控除3%(①のみを満たす場合)法人税額の15%限度
租税特別措置の適用要件の見直し
所得が増加している(当期の所得金額>前期の所得金額)にもかかわらず、賃上げと国内設備投資のいずれもほとんど行わない(継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率≦0%かつ国内設備投資額≦当期減価償却費の総額の1割)大企業については、「研究開発税制」等の租税特別措置の一部についてその適用をしない。
適用期間:平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間の開始事業年度
中小企業における賃上げの促進に係る税制
■対象期間:平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの開始事業年度
■要件(条件):継続雇用者給与等支給額:対前年度増加率1.5%以上
■税額控除
・給与等支給総額の対前年度増加額の15%を税額控除
・継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率が2.5%以上であり、かつ、教育訓練費増加等の要件を満たす場合には、控除率を10%上乗せ(→合計25%)
・税額控除額は法人税額の20%を限度
※財務省:平成30年度税制改正制度(平成30年4月発行)
「租税特別措置の適用要件の見直し」に関しては、利益を内部留保する会社に対する懲罰的な措置ですが、それ以外は法人税を優遇する内容であるといえます。
さらに給与の引き上げを条件としているので、労働条件がアップする効果があり、従業員にとってもメリットが大きくなります。
次にこの優遇税制を利用すると、どれくらいの節税になるのかを具体的に検証してみましょう。
平成30年度の法人課税改正の具体的効果
30年度税制改正による具体的な効果の検証と法人税引き詐欺のメリット・デメリットについても考えてみましょう。
条件を満たした場合の法人税
適用条件をすべて満たしたという前提で以下の利益がある法人が、税制改正によりどれだけ法人税が引き下がるか検討してみましょう。
売上高:50億円
人件費:6億(平均給与支給額300万円×200名)
純利益:1.5億円
法人税額:0.348億円(税率23.2%:平成30年4月1日以降)
上記の条件で試算すると以下のようになります。
※給与増加額の20%の300万円が税控除
純利益:人件費の増額により、1.5億円-0.18億円=1.32億円
法人税額:1.32億円×23.2%-300万円=0.276億円
法人税率:0.276億円÷1.32億円=18.6%
条件をすべて満たせば控除額は給与増額の20%が限度となるので、法人税率は4.6%ほどの引き下げ効果があります。
人件費が30億円(従業員1,000名)規模の大企業であれば、賃上げ総額6億円が控除の上限となるので、法人税の引き下げ効果はさらに高いでしょう。
大法人の定義は資本金1億円以上ですが、中小企業基本法では資本金3億円以下の製造業も中小企業として定義されています。
つまり大法人には、いわゆる大企業と中小企業が混在していることになります。
中小企業法では「業種」「資本金額」「従業員数」で中小企業の区分を分けており、以下の内容を満たした企業を中小企業として定義しているからです。
業種 | 資本金の額 | 従業員の数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
中小企業法においては、資金と従業員数によって区分されるため、売上高や利益というのは一切考慮されません。
そのため、例えばサービス業で売上が数十億あっても、資本金が5,000万円以下であれば法律に照らし合わせると中小企業に分類されます。
次に一般的な中小企業ではどれくらいの節税効果があるのかを検証してみましょう。
中小企業者の節税効果
売上 | 1.5億 |
---|---|
人件費用 | 6,000万円(20名×300万円) |
純利益 | 1,000万円 |
法人税額 | 215.6万円(800万円×23.2%+200万円×15%) |
上記の企業の場合30年度税制改正では法人税が以下の通りとなります。
人件費用 | 1.5%アップで90万円増 |
---|---|
純利益 | 1,000万円-90万円=910万円 |
控除限度 | 90万円×20%=18万円 |
法人税額 | 800万円×23.2%+110万円×15%=202.1万円 |
節税額 | 215.6万円-202.1万円=13.5万円 |
中小企業は優遇税制が適用になるので、控除適用前でも平均21.56%の法人税率ですが、20.21%まで引き下がります。
次に総合的に法人税減税のメリット・デメリットを考えてみましょう。
法人税減税のメリット・デメリット
法人税の減税はもちろん企業収益にとってはメリットですが、経済面を総合的に考えるとメリットばかりではないようです。
・利益の増加により投資資金が確保でき、新規事業の展開や技術開発につながる
・賃金の引き上げや人材開発の促進につながる
・国内企業の海外移転の歯止めとなる
・海外企業の日本進出により海外投資が拡大する
・企業の収益は上がるが、税収が減る
・法人税以外の税金が増税となる
・黒字企業にはメリットがあるが、赤字企業のメリットがない
・法人税減税だけで日本企業の国際競争力は上がらない
法人税減税についてはデメリットもありますが、中小企業にとって節税効果があれば積極的に利用しましょう。
それによって従業員の賃金もアップするので日本経済への効果も期待できます。
まとめ
米国を中心に主要各国の動きとして法人税の引き下げが主流のようです。
日本はよくても悪くても米経済や米景気の影響が大きいので、法人税の引き下げによって米企業の日本への出資が増えることも期待できます。
平成30年の改正に関しては政府主導の賃上げ効果がメインとなっています。
法人税負担の軽減をきっかけに設備投資ブームが発生すれば経済成長や景気拡大にも期待できるかもしれません。
いずれにしても中小企業から大企業まで、法人税減税の適用に積極的に取り組む必要があります。
税制改正の趣旨や条件などをよく理解して、積極的に節税を心がけましょう。