設備投資における採算予測するための計算方法

企業にとって設備投資は事業を発展させたり、売上効率を貯めたりする上で欠かせない要素です。

特に製造業では効率のよい製造機械を導入することで生産性をアップすることができます。

しかし設備投資のプロジェクトは一度実行すると後戻りできないため、実際にどれくらい生産能力が高まり、利益につながるのかを事前に予測することが大切です。

この予測は重要なので感覚的ではなく、客観性のある計算によって導き出すことが必要です。

今回は設備投資の予測に関する計算方法について詳しく解説します。

設備投資の経済性を計算する

設備投資を決定するにあたって主観的ではなく客観的に判断するためには採算性・経済性を計算することが必要です。

まずはこの基本的な考え方を理解しましょう。

設備投資の経済性計算のポイント

設備投資をする上でのチェックポイントは以下のとおりです。

  1. 設備に投資によって生じる収益(利益)と費用(支出)
  2. 減価償却による納税額の減少
  3. 上記の結果としてのキャッシュフローを導き出す

上記を事業年度別に割り出して設備投資が続く期間の合計額を算出し、設備投資額と比較して設備投資を決定します。

つまり1と2は設備投資によって生まれる現金の流入と流出の差額の合計が、設備投資金額を上回っていれば成功する可能性が高いということです。

ここで重要なのは必ずキャッシュとしてプラスになっていることが必要なので、現金をベースに試算することが必要です。

設備投資と減価償却

設備投資を実行した場合、購入した設備機械などは有形固定資産となるため、減価償却を行ないます。

減価償却は設備の法定耐用年数に応じて分割で経費処理をすることをいいます。

固定資産の価値は毎年下がっていくので、経年減価した金額を計上することで価値に見合った課税を行なうという意味もあります。

事業に関して支払ったお金は経費として所得税の対象からはずすことができるので、高額な設備投資ほど節税につながります。

減価償却費は設備の取得費用と法廷耐用年数がわかれば簡単に導き出されるので、計算方法を覚えておきましょう。

減価償却費の計算

減価償却費の計算方法には定額法と定率法の2種類があります。

個人事業主の場合は定額法での計算が義務付けられていますが、法人は法人税法により定額法と定率法の選択が可能です。

さらに定率法には取得年月日によって250%定率法や200%定率法などがありますが、ここでは最も新しい200%定率法について解説します。

定額法

毎年一定の金額を減価償却する計算方法。

取得価額100万円、耐用年数5年の場合(償却率0.2)

1年目~9年目・・・1,000,000円×0.2=200,000円
10年目・・・1,000,000円×0.2-1円=199,999円

減価償却が終わっても資産は残るため備忘録として1円計上する。

200%定率法(平成24年4月1日以降取得した減価償却資産に適用)

定額法と比べて償却率が200%となるため、200%定率法と呼ばれています。

償却率が2倍となるため定額法に比べて償却金額は大きくなりますが、均等ではなく初年度に近いほど年間償却費が大きいという特長があります。

200%定率法では耐用年数内にすべて償却できない場合があるので、改定償却率と保証率で調整をします。

耐用年数5年、改定償却率0.5、保証率0.108

1年目1,000,000円×0.4=400,000円(未償却残高600,000円)
2年目600,000円×0.4=240,000円(未償却残高360,000円)
3年目360,000円×0.4=144,000円(未償却残高216,000円)
4年目216,000円×0.5=108,000円(未償却残高108,000円)・・・改定償却率を使用
5年目216,000円×0.5=108,000円-1円=107,999円

4年目を3年目と同様に計算すると216,000円×0.4=86,400円となり1,000,000×0.108(保証率)=108,000円を下回ります。
その場合は改定償却率(0.5)を使用するルールです。

5年目は4年目の前年度の未償却残高と改定保証率を使用するので、4年目と同じ金額になりますが1円計上のため1円を差し引いて終了します。

参考HP:減価償却資産の償却限度額の計算方法【国税庁】

定額法と定率法の選択

個人事業主は定額法しか利用できませんが法人の場合はどちらも選択できます。
それでは定額法と定率法ではどちらを選択するといいでしょうか?

定額法では毎年の減価償却金額が均等になるため、減価償却費がおさえられ表面上の利益金額が高くなります。

定率法は初年度が最も減価償却額が大きくなり、償却期間が短期で大半の減価償却ができます。

ただし利益が低くなりますが、法人税支払額や所得税支払額を減らすことにつながります。
これらを考えると設備投資の金額が大きいほど定率法を利用したほうが、節税メリットが大きくなるということがわかります。

以前の250%定率法と比べて200%となった現在では、定率法のメリットが減少しているのも事実です。

また定率法は計算が面倒ということもあり、それほど高額でない設備投資の場合は定額法を使うのもひとつの方法です。

設備投資の経済計算方法

それでは設備投資の経済計算の具体的な手法をご紹介しましょう。

投資利益率法

投資利益率法は投資金額に対する利益率を求め、借入利子率や目標利益率と比較することで設備投資を判断する方法です。
投資の収益性を判断できるというメリットがあります。

投資利益率=利益増加額(利払前税引前焼却後利益)/(設備投資額+増加運転資金)

具体的に利益増加額は、投資前と投資後の(支払利息+収益関係税+当期利益)の差額を算出します。

投資額200百万円
支払利息20百万円→26百万円(増加分6百万円)
収益関係税25百万円→32百万円(増加分7百万円)
当期利益25百万円→32百万円(増加分7百万円)
増加運転資金なし

上記の場合、投資利益率は

増加額(6+7+7)/投資額200=10%

となり、借入利率が3%であれば、充分上回っているため効果がある設備投資と判断できます。

回収期間法

回収期間法は投資額がキャッシュフローにより何年で回収できるかによって判断する方法です。
適正な借入期間が判断でき資金繰りの視点から判断できるメリットがあります。

回収期間=(設備投資額+運転資金増加額)/キャッシュフロー増加額(利払前税引前焼却後利益)

投資額200百万円
当期利益25百万円→32百万円(増加分7百万円)
当期減価償却額30百万円→40百万円(増加分10百万円)

上記の場合、具体的な回収期間は、

200/(7+10)=11.76年

となります。

この回収期間が耐用年数や借入期間の範囲内であれば、設備投資には問題がないと判断できます。

投資利益率法と回収期間法はどちらかを選ぶのではなく併用して判断することで効果があります。

収益性と資金繰りの両面から検討することで正確な判断を導くことができます。

投下資本利益率(ROI)

本来の投下資本利益率は投資家が各企業に資金を投資する際に活用される指標ですが、これを利用して投下資金を回収するための期間を算出することができます。

計算式は複雑になりますが、簡素化された公式があるので大まかに判断したい場合は手軽に算出することができます。

ROI=当期経常利益/投下資本(設備投資額)

投資利益率法の計算例と同じ数字を使うと、

ROI=32/200=16%

1年間で投資金額の16%が回収できるという数字になります。

つまり全額回収するためには100÷16=6.25年かかるということです。

回収期間法で計算したのとは大きく違う数字になりますが、これは設備投資だけで生じた利益ではなく経常利益を基準にしているからです。

つまりROIで回収期間を計算するのは、新規事業を開業するときに行なうべきもので、個別の設備投資の場合は回収期間法を利用しましょう。

新規開業資金を銀行融資などで調達する場合には、ROIの数字が業界の平均を上回るように事業計画書を作成するといった使い方ができます。

内部利益率法(IRR)

投資を判断する方法のひとつに内部利益率法があり、この方法では投資額と収益が等しくなる割引率を求めます。

具体的には投資額と投資後のキャッシュフローの金額を用いて計算しますが、IRRを求める計算式は複雑なので通常はエクセルなどを利用して算出します。

エクセルにはIRR関数があるので、投資額とキャッシュフローの金額を入力するだけで算出できます。

ネットで探せばエクセルソフトのサンプルなどもあるので参考にするといいでしょう。
算出された数字(%)が資本コストを上回った場合、投資を採用することになります。

これも投資家が判断するための指標なので、中小企業が設備投資を判断する場合は投資利益率法と回収期間法の併用をおすすめします。

まとめ

経営者が設備投資を判断する場合は、設備投資にかかる支払額や売上高、増加利益額、増加費用、付加価値額等いろいろな面から検討しなくてはいけません。

しかし、あまり判断に時間をかけてしまっては、時期やタイミングを逃してしまうという側面もあります。

そんなときには比較的簡単にできる計算方法を覚えておくことで、意思決定を正確に早くできるメリットがあります。
最初から専門家に相談するというの方法のひとつですが、まずは自社で判断してからアドバイスを受けるという順番がいいでしょう。

そのためにも自社にあっている計算方法を事前に覚えておきましょう。

事業費、運転資金、設備投資・・・資金繰りで悩む経営者・事業主の方へ 経営者・個人事業主専用カードローン アイフルビジネスファイナンス