銀行融資を成功させるには格付が重要ポイント

銀行融資を受ける場合、融資対象の企業には何らかの格付やランク付けが行なわれています。

同じ融資申込でも格付のランクによっては融資金額に差があったり、金利に差がついたりということもあります。

それでは格付を高くするためにはどうしたらいいのでしょうか?

今回は銀行融資を受けるときの格付について解説します。

格付のしくみ

まずは銀行がどのような方法で貸付先の評価をして、格付を決めているのか、そのしくみがわからなければ改善することもできません。

格付のしくみから解説しましょう。

企業格付のランク

基本的に銀行の企業格付は10~12段階に分かれています。

1.リスク無し(正常)
2.ほぼリスク無し(正常)
3.ややリスクあり(正常)
4.リスクを含むが、良好な水準にある(正常)
5.リスクを含むが、平均的水準にある(正常)
6.リスクは高いが、許容範囲にある(正常)
7.リスクが高いため、管理が必要(要注意・管理債権)
8.警戒先(要注意・管理債権)
9.延滞先(破綻が懸念される)
10.事故先(破綻先)

上記のように格付けがされていますが、このランクによって銀行が融資を実行する場合の「貸倒引当金」の金額が違います。

銀行は融資をする場合、万一に備えて貸倒引当金を積む必要があるのです。

つまり最終的に貸し倒れになった場合に備えて、リスクに応じた金額を積み立てますが、企業格付がしたの企業ほど「貸倒引当金」が必要なのです。

正常と判断されている企業の場合0.2%だとすると、破綻懸念先は70%の貸倒引当金が必要になるのです。

現実的には9や10のランク付けがされると融資を受けることはできない状態です。

そのため少なくても「正常」と判断されるランクに位置づけられることが融資を受ける企業としては最低限度必要なことになります。

信用リスクが高いと評価されると債務履行が困難と判断され、融資の対象にならないのです。

第一次評価(定量評価)

銀行の企業に対する格付評価は3段階に分けられますが、第一次評価で8割方決まってしまうと言ってもいいでしょう。

第一次評価は定量評価とも呼ばれていますが、具体的には決算書の数字を専用ソフトに入力して評価を決定します。

つまり決算書の数字をスコアリングシステムで機械的に評価するのです。

配点は平均的なので、それぞれの項目でバランスよく点数を稼ぐことが必要となります。

■安全性

・流動比率(流動資産/流動負債)
 1年以内に現金化する資産と1年以内に返済する負債の比率。
 数値が1以上であれば安全性が高く、短期的な債務履行能力があると判断できる。

・自己資本比率(自己資本/総資本)
 自己資本比率が高いほど負債が少なく経営が安定している。

・ギアリング比率(他人比率/自己資本)
 負債比率とも呼ばれ、自己資本比率とは反対に数値が低いほど負債が少なく安定している。

■収益性

・売上高経常利益率(経常利益/売上高)
 売上高に対する経常利益の比率。高いほどもうかっている。

・総資本経常利益率(経常利益/総資本)
 この数値が高いほど効率的に利益をあげている。

・当期利益額
 登記決算後に差刺繍的に会社に残った利益で、当然大きい程よい。

■成長性

・債務償還年数((有利子負債合計-正常運転資金)/キャッシュ・フロー)
 企業が負債を何年で償還できるか判断する指標。

・キャッシュ・フロー額(営業利益+減価償却費)
 企業が実際に運用可能な現金の額

・インタレスト・カバレッジ・レシオ((営業利益+受取利息・配当)/支払利息割引料)
 営業利益と金融収益が、支払利息をどの程度上回っているかを示す指標

これらの指標でまんべんなく高い数値を出すことは難しいですが、高くなくても標準的な数値であるかどうかを自社の数値に当てはめて確認してみましょう。

第ニ次評価(定性評価)と第三次評価(実態評価)

二次評価と三次評価では決算書では判断できない部分を評価します。

しかし、二次以降の評価で一次評価から大幅なプラスになるということはほとんどありません。

■二次評価項目(定性評価)

・経営者の能力
・市場の将来性や成長性
・過去の返済履歴
・経営計画策定能力、財務管理能力
・販売力
・技術力
・マスコミ記事
・業歴

■三次評価(実態評価)

これまでの評価では該当しない項目を、補足・削除して補填する評価です。

たとえば土地の含み損の控除や含み益のプラス評価、回収不能売掛金や貸付金の回収不能分を資産から控除するなどの調整を行ないます。

債務者区分

三次評価まで終了すると最終的に企業を5つの債務者区分のどれかに分類します。

■債務者区分

1.正常先
2.要注意先
3.要管理先
4.破綻懸念先
5.実質破綻先
6.破綻先

「正常先」に評価される条件としては、当期利益の黒字と累積損失がないという点ですが、赤字でも正常先とみなされる場合があります。

それは創業赤字や一時的な赤字の場合、会社に十分な資金があるか経営者に充分な資産がある場合です。

「要注意先」は下記のどれかひとつでも当てはまると可能性があります。

・当期利益が赤字、
・融資の返済が一ヶ月以上延滞、
・純資本の部にマイナス表示(累積損失)がある
・債務超過

さらに3ヶ月以上の延滞があると「要管理先」になります。

経営破綻はしていなくても2期連続で債務超過かつ3ヶ月以上の延滞、または6ヶ月以上の延滞になると「破綻懸念先」になります。

法的・形式的に破綻していなくても、債権の見通しがない申告な状況であれば「実質破綻先」で、倒産・会社整理・会社更生などの手続きにがあれば「破綻先」に分類されます。

銀行の企業格付対策

格付の要素となるものはほとんどが決算書の数字に基づいていることから、最も効果が大きいのは決算書の数字を改善するということになります。

といっても決算書を改ざんするのではなく、最終的には健全な経営を目指すということです。

しかし、考え方や勘定科目を変えるだけでも正しく評価される可能性があります。

決算書の記載で格付改善

決算数字をよく見せようとして数字を水増しする為は銀行には簡単に見破られてしまいます。

かえって評価にはマイナスになるのできちんと記載しましょう。

たとえば減価償却の未計上にすると利益を大きく見せることができますが、簡単に発覚するのできちんと計上しましょう。

■各残高を改善

・大きな現金残高
 損金処理できない経費を現金勘定にすると不自然に大きな残高となるので適正な残高にしましょう。

・売掛金残高
 売掛金の関学は業界によって適正な範囲が決まっているので、粉飾はすぐに発覚します。
 適正な売掛金を保つようにしましょう。

・過大な在庫残高
 在庫も同様に適正に保つようにしましょう。

■格付が改善する処理方法

・受取手形の割引
 受取手形は手形割引で現金化すると有利子負債が減り改善につながります。

・買掛金と未払金の区分
 原価に対応する未払いだけを買掛金にして、それ以外は未払金として買掛金を減らすようにしましょう。
 買掛金の減少は運転資金が増加するので資金使途が説明しやすくなります。

・資産の売却収入
 継続的なものは売上に計上する。

・不良在庫の処分損
 売上原価ではなく特別損失に計上。

・見本品
 売上原価ではなく販促品なので「販売費及び一般管理費」に計上。

・退職金
 中小企業や零細企業ではめったにないので一時的なものとして「特別損失」に計上

上記以外にも決算書で改善できる点はたくさんあるので、税理士などの専門家に相談するというのもひとつの方法です。

添付資料で補足する

格付は決算書をもとにしてランク付けするので、一度決算書を提出すると次の決算まで改善することはできません。

そこで決算書を提出するときは、事業計画書を提出しましょう。

中長期的な事業計画書があれば、計画的な経営を行っているという裏付けにもなり、格付の改善につながります。

また、二次・三次評価の対策も必要です。

二次・三次評価では劇的にランクはアップしませんが、ひとつでもランクアップしておくことはその後に大きく影響します。

そのためにも会社の利点をリストアップして提出することも有効な手段です。

大手銀行ほど融資担当者が抱える企業は多いので、文章で提出しておけば具体的に利点を残すことができます。

預金残高も影響がある

融資申込をする銀行に普通預金や定期預金などの残高が多いというのも影響があります。

法人の預金残高だけでなく代表者や役員の個人預金残高も含みます。

格付以前にメインバンクかどうかを判断する材料として、預金残高は具体的な数字で判断できます。

銀行としては自行がメインバンクとなっているのと、サブバンクでは扱いに大きな違いがあります。

さらに大口預金者になると銀行に対しても対等に交渉をすすめることができます。

融資を有利にすすめるためにも、メインバンクを1行決めて預金残高も集中させましょう。

特に固定性預金は担保としても価値があります。

銀行も格付されている

銀行は取引先企業を格付していますが、その銀行もまた格付されています。

金融機関の格付を行なうのは、金融庁に登録している信用格付機関は全部で7社あります。

1.株式会社日本格付研究所
2.ムーディーズ・ジャパン株式会社
3.ムーディーズSFジャパン株式会社
4.スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社
5.株式会社格付投資情報センター
6.フィッチ・レーティングス・ジャパン株式会社
7.日本スタンダード&プアーズ株式会社

上記信用格付業者がそれぞれ独自の調査をしてメガバンクからフィナンシャルグループ、地方銀行、ネットバンク、信用金庫に至るまであらゆる金融機関の格付をしています。

もちろん信用格付業者は金融機関だけではなく、各事業会社に対しても格付を行ないます。

格付符号

格付会社は格付符号や格付記号と呼ばれている符号によって、格付のランキングを表示しています。

格付会社によって符号は違いますが、基本的にはアルファベットで表記し、ABCDの順に評価が下がります。

日本格付研究所を例にとると次のようになります。

1.AAA
2.AA+
3.AA
4.AA-
5.A+
6.A
7.A-
8.BBB+
9.BBB
10.BBB-
11.BB+
12.BB
13.BB-
14.B+
15.B
16.B-
17.CCC
18.CC
19.C
20.D

これらの格付符号をもとに業種別に信用格付ランキングなどを公表しています。

基本的には投資家向けに投資の確実性の目安にするため格付情報を公開しているのです。

しかし、あくまでは格付会社の調査によるものなので、あまり過信してはいけません。

主な銀行の格付

銀行や銀行グループはイメージだけで判断していますが、実際の格付はどうなっているのでしょうか?

ムーディーズの日次レポートを参考に各行を比較してみました(2017.2.28付け)

■フィナンシャルグループ

・三井住友フィナンシャルグループ・・・A1
・三菱UFJフィナンシャルグループ・・・A1
・みずほフィナンシャルグループ・・・A1

■銀行

・三井住友銀行・・・A1
・三菱UFJ銀行・・・A1
・みずほ銀行・・・A1

A1ランクはA+と同格で上から5番目の評価です。

メガバンクでも最高評価には程遠いということがわかります。

それでは最近増えているネットバンクや流通系の銀行はどうでしょうか?

ムーディーズではほとんど格付の対象にすらなっていませんが、他社では一部格付がされています。

■ネット銀行他の格付( )内は格付会社の略称

・セブン銀行・・・A+(S&P)AA(R&I)
・ソニー銀行・・・AA-(JCR)A(S&P)
・PayPay銀行・・・A+(JCR)
・オリックス銀行・・・A-(S&P)A+(R&I)
・住信SBIネット銀行・・・A(JCR)
・楽天銀行・・・A(JCR)
・イオン銀行・・・A-(R&I)
・関西アーバン銀行・・・A-(JCR)A3(ムーディーズ)
・東京スター銀行・・・A-(JCR)
・新生銀行・・・BBB+(JCR)Baa3(ムーディーズ)BBB+(S&P)BBB+(R&I)
※JCR(日本格付研究所 )、S&P(スタンダード&プアーズ)

ネット銀行では普通預金金利や定期預金金利、振込手数料やATM手数料などを優遇サービスしている銀行が多くあります。

ネット銀行は口座開設からオンラインですべてできるので利用しやすいですが、格付的にはメガバンクの方がランクは上位となっています。

しかし格付は投資家情報なので、必ずしも顧客の利便性を表すものではありません。

銀行はお金を預ける場所なので信頼性が重要ですが、同時に預金者にとっては振込手数料が無料になるといった利便性も必要です。

ネット銀行も顧客満足度調査をすれば、格付とは違った評価になるでしょう。

まとめ

中小企業経営者にとっては銀行融資による資金調達は経営の生命線にもなっています。

その中で少しでも有利な融資を引き出すためには、格付を意識して普段から決算書の記載を見直しておきましょう。

間違っている勘定科目を適正なものにするだけでも、決算書を改善することができます。

営業利益を上げることも重要ですが、せっかくあげた利益を正しく評価してもらうことも大切です。

高い格付は一朝一夕ではできないので、ふだんから決算書に関する知識を身につけ信用力を高める努力をしましょう。

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